形成外科専門医を取得後、美容外科研修を始めようとしているドクターに向けて書いています。
輪郭の手術で骨格を書いてきました。
次に筋肉です。
顔の輪郭に最も重要な筋肉は「咬筋」です。
えらが張っている患者さんの大部分に「咬筋肥大」がみられます。
えらの輪郭に筋肉がどれぐらい関与しているか、を評価することが重要です。
治療法として、手術による切除、BTX注射があります。
手術による筋肉の減量手術はえら削りと同時に行われることが多いのですが、スムースな輪郭をつくるのが難しいので、美容外科初心者向けの治療法とは考えにくいです。
結論として、咬筋減量はほぼBTX注入一択になります。
ここで輪郭を損ねないようにBTXを注入する必要がありますので、咬筋の筋体の解剖を熟知する必要があります。
咬筋の起始は頬骨弓、停止は下顎骨咬筋粗面ですが、えらを小さくする目的であれば咬筋の停止付近にまんべんなく注入することが大事です。
起始付近に注入すると頬骨弓下部が陥凹して老けたイメージになります。
また、部分的に注入するとほかの筋繊維が代償的に収縮して変な「力こぶ」ができることもあります。
BTX注入後の経過ですが、筋体の減量効果は筋肉収縮の停止から2週間ぐらい「遅れ」がありますので患者さんの説明にも注意する必要があります。
次号は脂肪のコントロールによる輪郭形成を書く予定です。
今年もあと1か月をきりました。
今年話題になった出来事のなかで、ちょっと前の「食品偽装問題」というのがありました。
とても興味深い話題でしたが、これは簡単に言うと「見てくれ」をよくして利益を得ようとする行為です。
よく考えてみると、ある意味、もともと「美容整形」などはこれの最たるものかもしれません。
だから擁護するわけではありませんが、エビの名前ぐらいどうでもいいんじゃないか、と思います。
どうせ味の違いなんか判らないし、食べて死ぬわけでもないですから・・・。
実際に美容外科で行われているボトックス注射などは、本家本物はボトックスと呼んでいいわけですが、そうでないものまで「ボトックス」注射としていたケースもあったという事実に比べれば「エビ」なんてどうでもいいわけです。
(これを読んでびっくりする患者さんもおられると思いますが、安心してください、うちのクリニックではボトックスビスタという純正で日本に正式に流通しているものしか使用していません。)
しかしこれを使用しているクリニックが少ない原因は・・・国内純正品はとにかく仕入れ値が高い!、これにつきます。
そうかといって施術料金を倍にすることもできないのです(うちのクリニックでは一か所31,500円です)。
正直に商売をしようとすると自分の首を絞めることになる、これこそが食品偽装問題の根っこにも言える重大な問題なのです。
表情しわの改善に効果のあるボトックスですが、意外と知られていないことがあります。
従来から多くのクリニックで使用されていたものは、そのほとんどが海外からの直輸入品です。
うちのクリニックでもそうでしたが、今年から国内承認薬のボトックスビスタに切り替えました。
ボトックスビスタは唯一の国内承認薬で、こちらのほうが色々な意味で安全性が高いため今年からこちらを採用しています。
↓うちのクリニックで採用されているボトックスビスタです
パッケージの下のほうに日の丸のマークが入っていますね。
患者さんにとっては、ボトックスビスタであれば美容医療を受けていただくうえで安心感があります。
コストは大幅にアップしましたが、診療価格は据え置きとさせていただきました。価格などはこちらを参照ください。
ボトックス注射はいろいろな意味で画期的な美容治療手段です。
従来美容外科で行われてきた治療は、基本的に「静的改善」でした。
表情のない状態で若々しくきれいに見えることが治療の目的であり、結果になります。
つまり表情を作ったときにどのような状態になるかは、考慮されていません。
以前他クリニックで下まぶたの若返り目的の下眼瞼切開をお受けになった患者さんが、笑った時に怖い顔になって困ったという訴えを聞いたことがあります。
表情をつくらなければ若々しい下まぶたであることは自覚されていました。
このように美容外科手術は表情の動きを計算に入れて手術するのは非常に難しいのです。
そのなかでボトックスは表情の動きを制御して治療効果を出すという点が今までの美容治療と根本的に違うところだと思っています。
ボトックスの治療効果を確実なものにするためには、顔面にある表情筋の解剖学的位置関係と動的なバランスを知って治療する必要があります。表情筋についてはこちら。
表情筋には動きが拮抗しているものがあります。お互いにひっぱりあってバランスをとりながら微妙な表情を作り出しているのです。
数ある表情筋のうちどれかひとつでもボトックスで動きを止めてしまうとそのバランスが崩れ、全く予期せぬ治療効果が出ることがあります。
たとえば皺眉筋と前頭筋は拮抗していてどちらか一方を止めると片方の働きが相対的に強くなります。
これは、ボトックスが筋肉内にきちんと注入されているという前提で起こりますので、ボトックスが効いていないほうが皮肉にもかえって表情のバランスを崩す可能性が少なくなるということが起こりうるのです。
先日、愛知医大で皮膚科の先生方の前でボトックス注射の実技指導をする機会がありました。
こういったことは超苦手なのでお断りしたかったのですが、皮膚科の教授からの直々の依頼でしたのでお受けしました。
その時感じたのは、私たち美容外科医は日常的にボトックス注射をしているので、「注射実技でなにか教えること、あるのかな~」と思っていました。
皮膚科の若い(と思われる)先生がたから、非常に熱心に見学され、質問を受けることで、「注射でも教えることがまだまだあるんだな~」とあらためて認識しました。
ボトックス注射をするには特に解剖学的な知識が必要です。
たとえば眉間の縦しわには皺眉筋に直接注射をする必要があります。この筋肉は結構深い所にあって意外に長いのですが、形成外科医は手術でこの筋肉の深さや長さを直接見ることがあるので、注射をする上での大事なポイントが容易に理解できます。
ところが直接手術で見る機会のない医者にとっては、こういった実技セミナーなどで勉強する必要があるわけです。
先日、「私は眉間のボトックスが2週間しか効かない」、と訴える患者さんが来院されよ~くお話を伺ってみました。そこでは眉間のしわに浅く2か所だけ注射をしてもらっている、と聞いてびっくりしました。
解剖学的な知識と実際に実技を見る、ということの重要性を再認識しました。
皺眉筋は眉間を中心に眉毛にそって横向きに走っています。なぜこの筋肉があるか意味はわかりません。
むしろこの筋肉のせいで年をとると眉間に深い縦しわができてしまい、いやがられます。
しかし、ボトックスという注射ができてこの筋肉の動きを簡単に止めることができるようになりました。
患者さんの中には、注射では一時的にしか止められないから意味がない、という人もいます。
この筋肉の動きを永遠になくそうと思うと手術になりますが、結構大変です。
頭のてっぺんから前額の皮膚をむいて右側の皺眉筋を見ています。(筋肉の下に青いシートが敷いてあります)
こんなに小さい筋肉ですが、切除しようと思うとこんな感じで筋肉をとることになります。
ボトックスと手術、どっちがいいですか?
前号の続き
FDAによると、ボトックスの死亡例は脳性まひの小児で、四肢の痙性の治療に用いられた例である。しかし、このような使用はアメリカでは認められておらず、このような使い方をした小児の例で死亡がおきたとのこと。
FDAによると大人ではボトックスによる死亡例の報告はなく、いくつかの副作用の報告は過量投与に関係しているとしている。
FDAの神経学的薬物部門の室長のRussell Katzによれば、しわ治療でボトックスを使用した例で、死亡例はない、(ボトックス治療によるものかどうかはっきりしないが入院例が1例ある)とのこと。
しかしボトックスの活性型の分解産物は従来考えられていた以上に、注射部位から離れたところの筋肉(たとえば下肢に注射したものが呼吸筋に影響する)に作用する可能性があるとしている。
先に消費者団体から報告されたボトックスによる16例の死亡例について、現時点ではFDAの見解と一致していないため、製造会社にデータの整合性の再検討をもとめた。
以上、知りえた範囲で言えることは、ボトックスをしわ治療で用いる場合その量は非常に少ないため重篤な副作用(嚥下困難やそれによる肺炎、死亡)が起こることはまず考えなくてよさそうです。大量に使用する場合は、呼吸筋への影響を考慮する必要がありそうですが、どれぐらいの量で死亡例がおきたか、もう少しデータを検討する必要がありそうです。
以上
ボトックスは美容治療でポピュラーな存在です。
ちなみにボトックス(ボツリヌストキシン)とはボツリヌス菌が産生する神経毒素で、 筋弛緩作用があります。表情筋が原因となってできるシワ(眉間・おでこ)などに薬剤を注入し、 筋肉を麻痺させて表情ジワの改善をしていきます。もともと、 顔面神経麻痺などの治療に用いられていた安全性の確立された医療技術で、ボトックス注入に使われる薬剤は、FDA (米国食品医薬局)の認可を取得した安全なものです。 |
ところが今年の2月8日にFDAからこのボトックスに関する緊急レポートが発表されました。
内容は、「ボトックス使用で16人の死亡例が報告された」ということです。このあと数日経ってから、国内のさまざまなサイトがこの話題を取り上げ、中にはボトックス使用の危険性をやや強調するような論調のサイトさえありました。
患者さんからも何件かこのことで問い合わせがありましたので、FDAのリポートを確認してみました。
FDAのサイトでは、この2月8日付のレポートはすでに削除されており実際に確認することはできませんが、アメリカのいろいろなWEBサイトで今回のFDAのレポートについて詳しく書かれていたのでそれをもとに真実は何かを調べてみました。
詳細は次号へ