鼻の手術でトラブルを避けるための必須アイテムはずばり「鼻中隔延長術」(以下SEG)です。
多分多くの美容外科医が「えーっ」と思うかもしれません。
「隆鼻術」じゃないの、とか「鼻尖縮小術」「鼻翼縮小術」を考えるかもしれません。
私が書いてきた、あるいは書こうとしている記事は、あくまで実践的にトラブルを避けるための美容診療の中で必要な手術アイテムです。
SEGがなかったら、私は今のように多くの鼻の手術をしていなかったといえます。
SEGがあったから私のような小心者で臆病な美容外科医でも自信をもって鼻の手術ができるようになったのです。
SEGを知る前の私は、鼻の手術はほとんどしてませんでしたし、ひょっとしたら意識的に避けていたかもしれません。
その理由はそれまで私にとって鼻の手術は結果がどうなるかわからない手術だったからです。
結果をお約束できない手術ほど気まじめな術者を不安に陥れる手術はありません。
このことについては過去に何度も記事の中で書いてきましたが、これは強調しすぎることはないと思っています。
私の受験勉強の話のところで書いたように、一番応用範囲のひろい基本項目からマスターしていくことが効率的であるとすれば、鼻の手術ではまさにSEGがこれにあたります。
SEGがマスターできると鼻先の長さや高さを含めた位置を決めることができます。
そのうえで鼻尖縮小術を同時に行うことで鼻先の形を決めることができます。
それに伴って鼻翼をコントロールしやすくすることができます。
また口元とあごの関係(いわゆるEライン)を改善することができます。
また鼻の始まり(いわゆるナジオン)を決めることと一緒におこなえば鼻の長さを決定することができるようになります。
SEGを行うことで鼻の大部分が決まってくることが分かればいかにこの手術が重要なアイテムであるかがわかります。
鼻の手術では1にSEG、2にSEGですからこのSEGは100%成功することが求められます。
これで失敗すると後がありません。
SEGについて次回以降で詳しく書きます。
さてこの「美容外科手術でトラブルを避けるために」シリーズの「上下瞼」の項目を11から20まで10回にわたって書いてきました。
11で述べたように最低これらの瞼に関する手術
埋没法、切開法(挙筋腱膜固定)、眼瞼下垂手術、隔膜前脂肪切除、眉下切開、目頭切開、目尻切開、下眼瞼下制術、下眼瞼脱脂術、下眼瞼切開術、上眼瞼脂肪注入術、下眼瞼脂肪注入術
をマスターできれば、やっとトラブルを避ける基本的なアイテムが身についたといえます。
もしこれらの手術の中で不安な手技があれば、これらを意識的にマスターしていきましょう。
自分が考える手術結果を安定して実現することができることを「マスターした」といいます。
これらがおぼつかない段階で、患者さんの希望をよく聞いてそれをかなえるという究極の目的にたどり着くことは不可能です。
これらのアイテムをもってすれば、瞼の相談に来られた患者さんの8割には対応できると思います。
自分の持っているアイテムでは無理だと思えば、遠慮なく断っていいと思います。
なぜならそういった患者さんは多くの場合、どこのクリニックに行っても納得していただけることはないからと断定できるからです。
逆にそれぐらいに患者さんに言い切れるまでまず「腕」を磨きましょう。
口下手だけど一人前の美容外科医として自分の腕だけで勝負をしたいと考えているこれからの美容外科医に、少しでも参考になればと思って書いています。
次からは「鼻」についてです。
上眼瞼脂肪注入の次は下眼瞼脂肪注入です。
上眼瞼ではHY注入をまず試みて~ということをお勧めしました。
逆に下眼瞼ではHY注入はあまりお勧めしません。
下眼瞼の皮膚は薄く、直下に眼輪筋があります。
そこに水分が多いHYをいれるとみずみずしいやや青みがかったクマができるからです。
くまの治療も希望されている患者さんになると、HYを注入することでさらに悪化する可能性もあります。
下眼瞼の色の改善にも脂肪注入は有用です。
ただし皮膚が薄い部位ですから、脂肪注入には最新の注意を払う必要があります。
脂肪注入はいろいろな部位に用いることができる有用な手術手技ですが、下眼瞼の脂肪注入が一番難しくリスクも高いです。
ぜひほかの部位の脂肪注入で慣れてから行うことをお勧めします。
この記事は、形成外科の専門医でこれから美容外科を始めようと考えている医師にむけて書いています。
今回は上眼瞼脂肪注入です。
上眼瞼の脂肪注入を考える前に、下垂があるかどうかのチェックは重要です。
下垂によって眼窩脂肪が奥に引き込まれていると眼窩脂肪の量は標準でも瞼が落ち込んで見えるからです。
このあたりは、形成外科医であれば日常的に診察していることですので詳しくは申しません。
下垂がなく瞼が落ち込んでいれば眼窩脂肪の量そのものが減少している可能性があります。
もしこの施術を始めてする医師であれば、脂肪注入を行う前にまずはヒアルロン酸(以下HY)注入をすることをお勧めします。
なんといってもHYはやり直しがききます。
脂肪注入は一部吸収されるといっても残るので、もしボリュームコントロールに失敗したら厄介なことになります。
また、上眼瞼に脂肪注入すると二重がせまくなる可能性があります。
このように予想が難しい手術の場合、よほど意思疎通が取れている患者さんであればいいのですが、そうでなければ事前に重々お話しする必要があります。
それよりもHY注入をまず試みて患者さんの反応をみて次に脂肪注入するかどうか決めたほうが実際的です。
前回の下眼瞼脱脂術に続いて今回は「下眼瞼切開術」です。
下眼瞼脱脂術が比較的安全に行える手術に比較して今回の「下眼瞼切開術」は顔面の美容外科手術の中で最難関の手術の一つです。
その理由は簡単です。
効果を上げるために皮膚を切除すればするほど下眼瞼外反のリスクが高まる「二律背反」だからです。
リスクを恐れ控えめな手術をすると「効果がない」とクレームになります。
また年齢とともに下眼瞼自体が緩んできて外反を起こしやすくなるところも、この手術が必要になるご年配の人ほどリスクが高いことになります。
この手術で必要な考え方は、「皮膚で引っ張らない」というフェイスリフトでもおなじみのやり方です。
フェイスリフトで引っ張り上げる担い手としてのSMASは、この手術では「眼輪筋」にあたります。
眼輪筋を弁として作成し、これを吊り上げて眼窩外側骨膜に固定する「筋弁つり上げ術」を行います。
それによって生じた余分な皮膚だけを切除するようにします。
もちろん術後に後戻りする可能性もありますのでそれを見込んで控えめに皮膚切除し、術後の検診をしっかりしてどれぐらいが適切な皮膚切除幅なのかを自分自身でつかんでおくことが重要です。
術後の合併症として下眼瞼外反だけでなく、下眼瞼自体が縮んで拘縮を起こすことがあります。
原因として考えられるのは、術後に血種ができて眼輪筋下に瘢痕拘縮が生じ下眼瞼自体が拘縮する可能性です。
私はとにかく眼輪筋下で剥離するときも丁寧に止血しながら、均一の層で剥離することを心がけています。
難しいといってもこういった基本をきちんとすることで多くの合併症は防ぐことができます。
いずれにしてもこの手術は美容外科医にとって上級者向けの手術であることは間違いありません。
今回は下眼瞼脱脂術について
これは皮膚側に傷を残さない点で、大衆受け、初心者受けする手術です。
脂肪を減らすことで、目の下のふくらみが減り若返りとしてそれなりの安定した結果が得られます。
さらに医学的なトラブルが少ない手術というおまけ付きです。
これをマスターしない手はないです。
ただし意識しないといけない注意点がいくつかあります。
この手術もほかの美容手術と同様、解剖学的な知識とイメージは重要です。
特に下瞼をひっくり返して手術を行うので、何も考えずに切開していくと切開創が浅くなってしまいます。
最初は剥離層が少しでも不安になったら瞼を元に戻して確認しながら行うといった慎重さがいります。
眼輪筋の裏側が見えていることと眼窩下縁を確認しながら剥離を進めていくことがガイドになります。
実際に一番大事なのは、術中に下瞼をけん引する助手がなれていることです。
下眼瞼の眼窩脂肪は3っつの部屋に分かれていることになっているのでそれも意識して、術前に必ず立位でどこのパートの眼窩脂肪が多いのかを確認してから必要な部位の脂肪を適切な量だけ切除することが肝要です。
びっくりするのは、この手術の術後のトラブルの相談からわかったことですが、この脂肪の取りすぎによる下眼瞼の陥没というトラブルが同じクリニックで引き起こされていることで、それも10年ぐらい前から何例か拝見しています。
術後の検診をきちんとしていれば自分の手術の誤りがわかりそうなものですが、、、。
どれぐらい切除すれば術後どれぐらい改善するかは、術後の検診を丁寧に行って自分の感覚でおぼえていくしか方法はありません。
下眼瞼下制術について
別名「たれ目手術」「グラマラスライン」
手術の目的は前回書きました。
全般的に下眼瞼の手術は難しい手術が多く、リスクも高い手術が多い傾向にあります。
この手術も難易度が高く、リスクも高い手術となります。
まず気を付けないといけないのは、結果的に皮膚側切除が多くなった時の「外反」です。
これを治すのはかなり難しいので起こさないことがトラブル回避の最重点項目です。
対策は単純で、まず粘膜側手術を最初に行い、術後1か月余りで戻りがないことを確認してから皮膚切除を必要最小限で行う、という方針を貫くことです。
それで重大な医学的トラブルを避けることができるようになれば、次はいかに安定した結果を出せるようにするかということに全力投球です。
それもそんなに難しくはありません、CPFと瞼板を確実に同定してこれらを間違いなく寄せて縫合することです。
さらにクオリティを高めるためには、できるだけ術後のダウンタイムを短くすることを意識することになります。
このように徐々に自分のスキルを確かめながら手技を磨いていくことが結果的にトラブルのない安定した結果を出す近道です。
くれぐれも皮膚切除を同時に行ったり盲目的に糸をかけて下げようと思ったりしないことです。
最近私が行っている方法については、20年12月ごろのブログに書きましたので参照してください。
目じり切開、下眼瞼下制術(グラマラスライン、たれ目)について
この二つの手術の意味をよく理解して行うようにしましょう。
これは目頭切開の逆です、黒目の外側の白目の面積が増えます。
結果、黒目が寄っているように見えます。
黒目が寄って見えるとなんとなくかわいらしさが増します(赤ん坊の顔を見ればわかりますよね)。
目じり切開で切れ長の目を期待している患者さんがいますが、ちょっと違います。
目じり切開を「股裂き」と考えれば、これをすることで目じり側の開瞼幅が増えることで上記のような効果がでます。
また目じり切開の時に外眼角靭帯を少し緩めることができるので、これと下眼瞼下制術を同時にすることでたれ目効果が増します。
実際に手術をするときに気を付けることはやはり局所麻酔の注入時です。
特に結膜側に局所麻酔が注入されるとぶよぶよになり何が何だか分からなくなって縫合が適当になります。
少しずつ局所麻酔を入れながら正確に切開します。
この手術も術後の検診を注意深くすると自分の縫合の問題点がよくわかりますよ。
下眼瞼下制術については次回に回します。
目頭切開について
目頭切開で注意すべきこといくつかあります
まずは傷がかなり小さいので切開縫合を丁寧に行うこと、層と層をきちんと合わせるような基本的なことをしっかり行うことです。
6mm足らずの傷に7~10針入れていくことになります。
局所麻酔をするときから気を付けないといけません。
術前のデザインが局所麻酔したところで消えてしまった経験は誰でもあると思います。
局所麻酔を注入すると膨隆して正しいデザインは二度とできなくなります。
もう一つ
デザインで気を付けることは、やりすぎないことです。
目頭切開は両側で行うので、効果が倍になります。
最近は少なくなりましたが、目頭切開の修正相談は100%「やりすぎ」の修正です。
目頭切開をやりすぎると「目が寄りすぎる」と心配されるのですが、実は逆です。
目頭切開をすることで内側の白目の面積が大きくなり黒目の位置が離れて見えるようになります。
こうなるとなんとなく「宇宙人」感が出てきて気味悪がられます。
しかし適切に目頭切開をすると目元が華やかになり、二重のラインも並行になりやすくなるなど魅力の多い手術で絶対にマスターしたい手術です。
方法はシンプルな「Z形成」で十分と思います、もしこれで満足できそうにない患者さんにはよそのクリニックを紹介しましょう笑。
Z形成術で気を付けることは皮弁を入れ替えたときにできる小さなドッグイヤーで、これがどんなに小さくともきちんと処理することです。
傷の長さよりもこの小さな皮膚の膨隆が患者さんのクレームにつながりやすいのはほかの美容外科手術に共通した現象です。
眉下切開術について
ご年配の方の上瞼のたるみに非常に有効な方法です。
上瞼のたるみは、通常年齢とともに外側に生じてきて「三角目」になってきます。
内側のたるみも生じますが、外側に比べて軽微なことが多いようです。
この手術は、眉下の皮膚を切開・挙上するので別名「上眼瞼リフト」とも呼ばれています。
解剖学的デザイン的に外側のたるみに有効なので、患者さんの希望にマッチしやすい方法です。
傷の問題と上眼瞼のボリューム減少の問題はしっかり頭に入れておく必要があります。
上眼瞼にたるみがあってもすでに落ち窪んでいる瞼には慎重にしないとより落ちくぼんだ目になってしまいます。
顔全体のたるみにも共通しますが、必ずボリュームコントロールを合わせて考えないと患者さんの満足度アップは得られません。
傷に関しては、案外トラブルが少ないようです。我々のクリニック、ほかのクリニック全体でみてもここの傷の修正希望は聞いたことがありません。
おそらく時間とともにかなりの程度で目立たなくなることと、女性の場合眉毛を書くことが多いので気にならないからだと思います。
いずれにしても上眼瞼のたるみが比較的マイルドにしかも自然な形で解消できることと元々の二重のラインが生かせるという点はご年配にとっては大きなポイントになります。
逆に大きな変化を望む方やたるみを取りながらはっきりした二重を作りたい方にこの手術をすると物足りないと感じてクレームになります。
実際に過去にそういったケースがありました。
ただし取り返しのつかない状態になることはなく、あらためて重瞼ラインで皮膚切除をすればいいことなので、慌てることはないです。
まとめ
眉下切開(上眼瞼リフト)のマスター(皮膚を切除して2層縫合ができれば特に問題になることが少ない手術)(デザインは術前に行って皮膚切除量を決めるがそれ以上の効果が出てしまうことはない)(激変を期待している患者さんには進めないほうが無難)(術直後の瞼に生じる斜めのしわは時間とともに解消します)(術後間もないころに患者さんから傷や効果についてクレームぽいことがあってもよほどのことがない限り時間とともに解消することが多いので慌てない)