前回、鼻の手術で、結局は患者さんご本人が結果を見てみないと成功失敗の判断ができない、と申し上げました。
それはある意味、美容の手術は「ギャンブル」みたいなもの、ということになります。
それをいかに確かなものに近づけるか、ということが美容外科医に課せられた課題とも言えます。
しかし以前にも書きましたが、すべての施術において1回で完璧な結果を出す、ということは思いのほか難しいものです(といってもこれは凡庸な私の場合であって、世の中には「神の手」を持った医師がいるのかもしれません・・・)。
それを前提に考えると、美容の手術はやり直しができる手術、あるいは調整ができる余地のある手術を心がけるのが肝要だと思います。
私が好んでする手術方法については、大部分、この基準で選ぶようにしています。
挙筋腱膜を用いた重瞼術や、鼻先の調整がしやすい鼻中隔軟骨延長術などはその代表です。
さらに大事なことは、手術中はできるだけ組織を傷めないように丁寧な手術を心がけるということです。
修正手術を手掛けていると、前回あるいは前々回の手術でどのような扱いを受けたかで修正手術の成否もほぼ決定されてしまうことを痛感します。
乱暴な手術の後には、びっしりと瘢痕形成が生じていて、組織もひどい損傷を受けていて、修正がかなり困難になります。
逆に丁寧な先生の手術後は、瘢痕形成が少なく、組織も温存されていて、結果、修正も明らかにしやすく容易であったりします。
術前に100%患者さんの術後のイメージを術者と共有できる保証のない現状では、まずは時間をかけたカウンセリングが第一で、その次は丁寧で柔軟性のある手術を心がける、ということで結果的に少しでも成功率を高められるようにできればいいと思います。
今年に入っても、相変わらず鼻の手術の修正が多いのですが、最近韓国で手術を受けた方の修正相談・手術の経験が続きましたので書きます。
一言でいうと、鼻の手術のレベルは韓国のほうが日本の標準よりも圧倒的に上だ、ということです。
手術のレベルは、術者の意図する結果が手術で実現されているかどうか、組織が愛護的に扱われているかどうか、など術者の解剖学的知識、形成外科的な手術手技で判断できます。
その点、韓国で行われた手術の術後所見からは、基本がしっかりしていて、新しい知見に基づいた手術手技もふんだんに取り入れられていることが十分にわかります。
たまたま私が拝見した患者さんたちが、韓国の上級レベルのクリニックで手術を受けていたのかもしれませんが、過去に私も韓国のクリニックで鼻の手術の見学に行った経験や普段から行われているセミナーの数やレベルから考えても韓国の鼻の手術の平均的なレベルだと判断できます。
それではなぜ術後に修正希望となってしまうのか、
一般の人が考えるに、上手な手術がなされていれば結果に不満はなく修正希望はあり得ないはず、だと思いませんか?
ここが美容外科手術の一番肝心なところで、とても難しい問題でもあります。
要するに、手術を受けた結果、誰が見てもきれいな鼻になりました、ではいけない、ということです。
美容外科の手術を受けたい、と思う患者さんの動機は、他人から見られたときに「きれい」と思われることではないからです。
それに近い感情があるとすれば、他人から見られてきれいだと思われていると「自分」が思いたい、です。
しかし、そういう患者さんもむしろ少なくて、大部分の患者さんは自分自身が納得できる鼻になったかどうか、だけが結果的に手術の成功・失敗の判断基準になることが多いようです。
これは美容外科医自身もわかっていないことがあります。
一般の方でも賢明な方であれば、このことが理解できると思いますし、さらにすぐに次のことに気づきます。
納得できる鼻は、患者さん自身しかわからなくて、しかもその鼻になってみないとわからない、ということです。
これを術前に術者が100%読み取ることは、神様でない限り不可能です。
そのことを踏まえたうえで、最初の問題を考えてみましょう。
韓国の術者のレベルは高い、と申し上げました、それは「術者」の意図する結果を手術で実現できているから、です。
しかしこれは、患者さんの意図するところを実現できた、とは別問題です。
手術の技術だけでは、美容外科は足りないのです。
結局は、100%患者さんの希望を読み取ることは不可能にしても、術者と患者さんの意思疎通がどれぐらいとれているかが重要になります。
そこで一番大事なのは、「言葉」になります。
日本人特有の「なんとなく通じる」は、美容外科ではご法度です。
日本人の美容外科医を相手にするときでも、「お任せ」という人が一番修正になる確率が高いのです。
ましてや不自由な言葉以外に意思疎通する手段の少ない、外国の美容外科医を相手にして、自分の希望(それもかなり微妙なニュアンスを含めて)を伝えることがいかに大変なことか・・・。
以上、少し回りくどい言い方をしましたが、不幸にも術後の結果に満足できなかった場合の注意点を・・・。
とにかくコミュニケーションの取りやすい美容外科医を探すこと、あわてて修正手術を決めないこと、自分の希望をしっかり表現できるように準備すること、です。
何がともあれ美容外科で最もポピュラーな手術と言えば、重瞼術です。
周知のごとく、これには「埋没法」と「切開法」があります。
重瞼術について私なりの考え方を申し上げます。
重瞼術は顔の印象を大きく変える可能性があります。
だからこそ美容外科手術の王様なのですが、たまにその変化に心がついていけない患者さんがいます。
埋没法は、そういった患者さんに最適であると考えています。
なぜなら・・・万が一もとに戻したい、という事態が起きても基本的には糸を抜去してもとにもどすことができるため結果大変なことにならずに済みます。
それに比べて切開法になるともとに戻すことはほぼ不可能と考えられるので、事態がとてもシビアです。
したがって今回が初めての重瞼術、という患者さんにはとても有益な手術法といえます。
この考え方からあえていうなら、ラインが絶対に取れない埋没法とか抜去できない埋没法、というのは少し矛盾を感じます。
逆に、切開法でラインが取れてしまう、という事態は、最悪な事件です。
瞼に傷をつけてまで受けた手術にも関わらず、ラインが取れてしまったならば何の意味もないといえます。
ラインが取れてしまうなら、結局埋没法でよかったんじゃないの、ということになるからです。
美容外科医は、切開法で重瞼術を行うなら少なくともラインが取れない方法を選択しなければいけない、と書いたのはこういう理由からです。
CPFが曲者、と書きました。
なぜここに糸をかけるのが難しいか、それは前述したように引き上げられない膜だから結果的にとても深いところに糸をかける、ということになるからです。
術者であればわかると思うのですが、深いところに糸をかける動作はとても窮屈でやりにくいものです。
しかもかけ終わった時に必ず、引き上げる動作をしていしまいますので、そこで膜がきれてしまってかけ損じることもあります。
盲目的に、その膜を実際に見ないで糸をかける、ということをしている術者もいるとは思いますが、非常に危険だと思います。
その理由は二つ
一つは、美容外科の手術のトラブルは、この盲目的操作にあるということを思い出してください。もし深くかかってしまったらその奥には下斜筋があります。
これに糸をかけてしまったら眼球運動に制限が出る可能性が高くなります。
術後に複視の訴えがあればこの可能性大です。
もう一つの理由は、もし掛け損なっていたら、という場合です。
要するに術前にお約束した「下まぶたをさげる」という大前提が遂行できなくなります。
手術の結果をお約束できない手術、というのは患者さんはもちろん我々美容外科医にとっても非常にまずい手術になります。
こういった理由から少なくとも術者は、これがCPFだ、と確認してこれに確実に糸をかける、という手順を踏む必要があります。
実際に見てみると、白い組織の中に、なんとなく光沢のあるシルキーな組織を見つけられればそれがCPFの可能性があります。
おそらく外眼筋の手術をやり慣れている眼科医(斜視の手術をたくさんこなしている眼科医、それほど多くはないと思いますが・・・)にとっては、それほど難しくない手術だとは思うのですが、形成外科医にとってはすこし困難な手術だと考えます。
ずいぶん前にこの手術方法について書いたことがあります。
最近この手術の問い合わせが多くなりましたので、最近の私の考え方も含めて再度書いていきます。
まず最初に申し上げておきたいことは、この手術は、手術そのものがかなり難しい部類に入ります。
したがって、当然他院の修正術も多くなります。
修正術希望の患者さんの訴えは、ほぼ全例、もっと下がると思っていたのに下がらなかった、あるいは戻ってしまった、というものです。
この手術は、下眼瞼の芯と考えられるところの「瞼板」を、Capsulopalpebral fascia(CPF)という膜に縫合固定して下まぶたを下げる手術、ということになります。
ずばりこの手術の難しいところは、このCPFがなかなか見つけられない、ということにつきます。
このCPFについては、形成外科のみならず眼科の教科書を調べたりしてもなかなかしっかりした記述がなく、場合によっては違うものをCPFと説明している教科書もあります。
しかも実際に手術で見てみると、CPFの位置は非常に深く、直視下に見ることがとても難しいものです。
一見CPFに見えても、実は違うものが周囲にいくらでもあるので間違えることもしばしばです。
修正手術で他院がどのように手術しているか見てみると、100%、間違えやすいところに糸がかかっていることがわかります。
この手術に慣れてきても、実際にCPFを直視下に見てこれに糸をかける、というところまでに1時間近くかかったこともあります。
しかし、一旦本当のCPFに糸がかかれば、必ずさがりますし、ほとんど戻らないことも確認できます。
びっくりするほど下がるので術後に逆まつ毛になりやすいです。
私の場合、CPFに3本の糸をかけるのが精いっぱいで、瞼の下がり具合を細かく調整したり(ちょっとゆるめにするなど)、術後の細かいまぶたの形までお約束できる自信はありませんが・・・。
この手術を簡単だと思っている術者がいたら、おそらくそれは間違った手術をしている、と断言できる手術です。
皮膚や粘膜を切り取ることである程度結果をごまかせる場合もありますが、それは本当の下眼瞼下制術ではありません。
私の場合、最初の手術で粘膜や皮膚を切除することはなく、それでも正しい手術(本当のCPFが見つけられれば)をすればさがります。
正しいCPFが見つけられたかどうか、判断する方法は、これと思えるものがみつかったら攝子でつまんで少し引き上げて見てください。
少しでも引き上げることができてしまったら、それは残念ながらCPFではありません。
引き上げることのできない膜に糸をかけるのですから、そこのところが最高に難しいと感じます。
それぐらい引き上げられないものがCPFで、だからこそ確実に下眼瞼を下げることができるのだと考えられます。
2015年最初の記事になります。今年もよろしくお願いします。
年が改まりましたが、新年早々、長時間手術が続いてなかなか更新できませんでした。
最近は鼻の手術に関した記事ばかりになっていましたので、久々に瞼関係の記事をかきます。
ここ1週間でまぶたの修正手術が続きました。
鼻の修正と違ってまぶたは、前回の手術の影響が結果にはっきり出ます。
修正手術をするときには、前回の手術で何がなされているかを探りながらの手術になります。
一般の患者さんにとって「全切開重瞼術」といえば、内容が同じだと思っておられるかも知れませんが、クリニックによってやり方がかなり違います。(これは鼻の手術でもいえることで同じ名前の手術だから同じ内容、とは限らないのです。)
むしろ私のやり方と同じ手術に出合うことは稀で、なぜなら、そうであればまず修正にはならないからです。
一般に「全切開重瞼術」の術後修正には、修正できる場合と修正がかなり困難な場合があります。
修正ができるのは、重瞼ラインが消えたもしくは薄くなったのをはっきりさせる場合、狭い重瞼幅を広げる場合、目の開きが悪くなっている場合、などです。
逆に修正が困難な症例は、重瞼ラインがはっきりしすぎてそれをうすくする場合、広すぎる重瞼幅を狭くする場合、目の開きが大きすぎるのを戻す場合、などです。
そこから考えると、初回の手術で後者のような二重を希望している患者さんはよほど注意して手術を考えないといけないことがわかります。
話をもとに戻しますが、全切開には色々なやり方があり、前者のような結果になる場合、なされている手術法には共通点があります。
それは「挙筋腱膜」の処理の仕方がまずいことです。
これを間違えなければ、まず重瞼ラインが薄くなるとか、目の開きが悪くなることは少ないです。
重瞼ラインに一致するところの皮膚を腱膜に固定することでライン消失や浅くなることを防ぐことができるからです。
ライン消失の患者さんの修正手術をすると、腱膜が同定されていなかったり、違う膜に皮膚固定されていたりします。
患者さんには、腱膜が同定されていない、ということの意味が分かりにくいかもしれませんが、そもそも薄いまぶたの中からさらに薄い腱膜を見つけ出すことは意外に難しいことなのです。
また形成外科で眼瞼下垂の手術のトレーニングをしたことのない先生の中には、本当の挙筋腱膜を観たことがなくて、長年違う膜を腱膜とおもって手術している先生もおられるようです(修正手術をしているとそういったことも含めて前回手術の術者が何を考えて手術したか、全部わかってしまうものです)。
修正手術は、前回の手術の内容を推理し考えながら、それらを一つ一つ検証し結果との因果関係を探っていって明らかにしたあとで、状態をリセットし、新たに患者さんの希望した瞼になるように手術を最初からやり直す、という手順が必要になります。