
1980年に吸引管を用いた最初の脂肪吸引手術がおこなわれ、その後、脂肪吸引法は急速に普及します。脂肪吸引法の技術もここ数十年で発展し、より安全に、早く、確実に結果が得られるようになってきています。
脂肪吸引の技術で重要なものは以下のとおりです。
1990年Kleinにより報告された方法で、「ウェットメソッド」と呼ばれることもあります。
脂肪吸引を行う前に大量の生理食塩水を皮下脂肪内に注入し、これによって手術中の出血量が少なくなります。
この方法によって一度にたくさんの脂肪を吸引することができるようになりました。
1996年Zocchiにより報告された方法で、脂肪吸引に先立って皮下脂肪に超音波をあてると脂肪が軟らかくなり、
その結果吸引が容易になります。
吸引管に動力を加えることで、手術者の労力が軽減され大量の脂肪吸引を行うことが可能になりました。
術前に特殊なレーザーを皮下脂肪に照射することで脂肪の液状化がおこり、吸引されやすくなります。
脂肪吸引法は現在痩身術の第一選択術式として考えられ、従来の皮膚皮下脂肪を切りとる方法は少なくなってきていますが、皮膚のあまりが多い方や腹壁のゆるみがある場合は直接皮膚を切り取って脂肪も同時にとる方法が必要になることがあります。
脂肪吸引術は皮下脂肪を減量することで理想の体形に近づける手術です。
具体的には直径が2〜4mm専用の管を皮下脂肪に挿入して陰圧をかけてこれを吸引します。
この操作を部位や向きを変えて繰り返し行っていくことで皮下脂肪が蜂巣状になっていきます。
その段階で皮膚の上から圧迫を加えることで皮下脂肪がうすくなります。
術前と術後の皮下脂肪の様子をイラストにしたものです。



できるだけ細い管で吸引したほうが万遍なくきれいに仕上がります。私が使用しているものは直径が1.6mm〜2.5mmのものです。
脂肪吸引術の成否にかかわりの深いものは「皮下脂肪の厚さ」と「皮膚の状態」です。
皮下脂肪が厚いほどたくさんの脂肪を吸引することができ、減量効果が大きくなります。
患者さんの減量希望部位の皮下脂肪の厚さを立った状態で調べていきます。
患者さんの希望する部位に必ずしも皮下脂肪がついているとは限りません。皮膚のたるみを皮下脂肪の厚さと間違えていることもあります。
皮下脂肪の厚さを測るのにはピンチテストが一般的です。

ピンチテスト
特にお腹の脂肪減量手術の際には、皮下脂肪と内臓脂肪を区別する必要があります。
内臓脂肪は腹部臓器の周囲に沈着する脂肪であるため、脂肪吸引の対象外です。
下腿の皮下脂肪の厚さをみるときもふくらはぎの筋肉の緊張をとるため患者さんに座った状態で診察することもあります。
吸引部位の皮膚の状態を知ることは最も重要です。
皮膚に弾力がない場合、皮下脂肪吸引後に細くなるどころか皮膚のたるみがかえって強くなってしまうこともあります。
その場合は、たるみが出ない程度に吸引を控えるか、余った皮膚を切りとってつじつまを合わせることもあります。
皮下脂肪の浅いところを吸引して皮膚のたるみを予防する方法もあります(superficial liposuctionについては後述)が、術者がなれていないとかえって皮膚表面がでこぼこになります。
脂肪吸引は術後に貧血になることがおおいので、術前の血液検査のチェックが必要です。
手術前から貧血が強い人は、手術を延期し貧血の治療を優先します。
脂肪吸引部位が決定したら、立った状態で吸引する部分をデザインします。
等高線を描く要領で吸引部位の範囲を体表にかいていきます。
次に吸引孔の位置をマークします。吸引孔はできるだけ目立たないところにあけますが、吸い残しがないように1吸引部位に対して複数個あける必要があります。
吸引部位や吸引範囲に応じて、
となります。
吸引範囲が手のひら1〜2枚の広さまでであれば、局所麻酔で十分ですが、それ以上になると硬膜外麻酔や全身麻酔が必要になります。
術中の出血量を抑え、吸引を容易にするために、手術前に皮下脂肪内に大量の生理食塩水を注入します。(「チュムセントテクニック」の「チュムセント」は「腫脹」、「膨張」という意味です)。

通常利き手に吸引管を持って吸引を行いますが、反対の手で常に吸引部位の皮下脂肪の状態を確認しながら吸引を行います。

吸引孔は吸引管による頻回の摩擦での皮膚のやけどを防ぐために吸引孔プロテクターを使用しています。
吸引管は長短・太細・穴の形状によるちがいで合計8本ぐらいを用意し、手術部位、吸引脂肪の状態にあわせて使い分けます。同じところを一度に吸引すると、そこが陥凹しあとで修正が難しくなるため、 常に吸引部位をかえながら偏らないように吸引していきます。
大量の脂肪を吸引すると、時に予想しない皮膚と筋肉の癒着が起きることがあります。
その結果場合によっては手術後に皮膚の表面の凸凹が生じることあります。

それを予防するために2001年よりMultiple Layer liposuction(以下MLL→論文参照)という方法で手術をおこなってきました。
この脂肪吸引法は皮下脂肪を3層に分けてそれぞれを順番に吸引します。
この3層の間に吸引されていない脂肪層を少し残すことで、大量の脂肪を吸引しても仕上がりがスムースになるようにできます。

まず最初に深いところをデザイン通りに比較的太めの吸引管で吸引(この段階で終了すれば、
従来の脂肪吸引と同じです)し、次に浅いところを細い吸引管で吸引範囲全体にわたってcriss‐cross法でまんべんなく吸引します(この段階でSuperficial Liposuctionになります)。
最後に残った中間層の皮下脂肪を吸引します(Multiple Layer Liposuction)。それぞれの層を順番に吸引し、層の間に吸引されていない層を残します。
残した脂肪層が皮膚と筋肉の癒着を予防します。

手術中に大量のチュムセント液が注入されているので、吸引孔を術後24時間程度開放としこれをドレーン代わりにします。
術後の腫れ予防の効果もあります。通常、翌日に来院していただき
腫れ・血腫がないことを確認したあとで吸引孔を閉鎖します。
術後の腫れを予防し、脂肪吸引の効果を最大にするために、手術部位の圧迫は重要です。
術直後は弾力包帯で圧迫しますが、1週間後から着脱が容易な専用の装具に変えます。
術後3ヶ月はできるだけ装着するようにします。
ところどころ硬い部分には、マッサージを行います。
全身的な合併症にはまれですが肺塞栓などの重篤な合併症の報告があります。
術後できるだけ早い段階で動くようにすることが予防につながります。
手術の結果における合併症では以下のものがある。
脂肪吸引した場所の皮膚が術後にたれることがあります。
中年以上の患者さんで皮膚の弾力が失われている場合には特に注意が必要です。上腕伸側や下腹部、臀部下部に起こりやすい。
深部の皮下脂肪に吸引がかたよるとおこりやすいため、中間層、表層ともにまんべんなく吸引することである程度防ぐことができます。
デザインの間違い、太い吸引管による吸引、吸いすぎ、が原因でおこります。
立位による正確なデザインが重要であることと、技術的にはできるだけ細い吸引管で丁寧に吸引することが美しい仕上がりにつながります。
